正直言いますと、とても後味が悪かったです。コメディーっぽく描かれていますが笑って済ませていいのかわからないし。いや、すべてを解ったうえで笑い流せて、その存在を受け流せるのならまだいいのかな。
映画自体はとても良く出来ていて、ヒトラーをあまり知らない(わたしみたいな)人間でも一発で彼のカリスマ性や狡猾さを垣間見ることができます。そして、彼が独裁者になったのは、ただ彼自身がそういう性質だったから、という単純な話ではないことも解ります。
…うん、単純な話じゃないと気付いた時に背筋が凍る思いをしたのです。
まぁでも、「選んだのは民衆」というヒトラーの言葉には、最初はとても陳腐で言い訳にもならないと感じました。その通りかも知れませんが、自分の暴走の顛末を連帯責任にすんのはあまりにも無責任すぎて呆れません? あなたのせいでどれくらいの人の命が散っていったというの…
といいつつわたしもそんな言葉を口走ってしまったなぁという件があったことに気づきましたわ、最近の某東京都知事のお戯れ事で(汗)。
そうなんですよね、人間ってどこかしら“無責任”な部分を持っているものです。実際に悪い影響が自分に降りかかりさえしないのなら、多少は目を瞑りますよという。政治にかぎらずそういうことが原因で起こる不幸もけっこうありますしね。
彼を一番最初に“発掘”したサヴァツキという男は、目を瞑れなかったんでしょうね。取り返しの付かないことをしてしまったのではないかと。それに気づく伏線は他にもあったのですが、まさかヒトラー本人とは思ってないし、誰もそれに言及しないから、犬を撃ち殺したり高圧的な言動を目の当たりにしても、まぁなんとかやり過ごしていたというか。何より彼の存在があってこそ愛する女性との恋が進展できて仕事も手にできたのだからという感謝の気持ちもあったのかもしれません。
そして彼を止める手立てはいくつかあったのに、みな目先の(自分の)利益優先で物事を見るから、ギリギリのラインででもクリアしていって気が付くと彼の独壇場になっていく… 一度彼は多くの民衆を動かしている経験があるので、民衆の性質をつかめば、どのように振る舞えば人が動くかも手に取るように解っているため、はじめサヴァツキが提案したドキュメンタリー映像を撮るための行脚と芸人としての振る舞いが皮肉にも功を奏してしまいました。
そして、あのラスト手前のどんでん返しこそが、さらに背筋が凍る結末となったのです。
続きます